2022-05-14 花のこゑ 「花のこゑ」 人道回廊抜けて初蝶海へ消ゆ ヴィーナスの欠けた腕や春の潮 赤く舌延ばす入日や三鬼の忌 沈黙し黙秘したまま咲くさくら 花明かりさびしき街の底にゐて 春暁にたましひ遊びすぎたるか 逃水や助手席の吾子遠かりき
2022-03-24 春のこゑ 立春の雨うつくしき無縁坂 標なき辻に佇ちゐて涅槃西風 虚空より花のようなる春の雪 残雪や翔ちゆく群の残すこゑ やはらかき水のおもてにみづあふる あらあらと黙深き闇ふきのたう 春雷や奇跡の如く我ら遭ふ
2022-01-20 冬山椒 水鳥の黙の水脈より日暮れけり 詩の荒野吼ゆる狼ゐたりけり ふぐりなき狼もゐて咆哮す おほかみのこゑ谺する夜のふかさ 火のごとき孤独を焚べる夜の暖炉 君逝きてなんとつまらぬ冬の薔薇 報はれぬ生き方もあり冬山椒
2021-12-20 詩の水脈 鴛鴦の水脈涸れずあり詩の器 悲しみは拳のかたち通夜寒波 街騒を消してやさしき寒の月 古書街の十一月の日の匂ひ 書架に差す冬日に眠る罪と罰 睥睨す皇帝ダリアなら許す 冬三日月黙しがちなる一行詩