光声の徒然日記

十七音で日々を徒然なるままに記す

2020-01-01から1年間の記事一覧

時雨

死者たちの飛び交ふ虚空より時雨

草紅葉

草紅葉休まぬコイン駐車場

秋残照

秋天の穴から零れ落つ時間 幻想の都市空にあり曼殊沙華 日本に戦争色の秋夕焼 秋深し生きる理由と死ぬ理由 プロペラ少年秋夕焼けの中帰る

秋しぐれ

さびしさのぐずぐず崩れ秋しぐれ

秋没日

叱られし与太が見てゐる秋没日 秋没日(あきいりひ)

葛の花

いにしへの恋のかをりや葛咲けば

秋燕

秋燕かつて雲母といふ結社 踏み入りて知るさびしさの夕花野

秋天

秋天や掬ひきれない一行詩 秋天の穴から零れ落つ時間

曼殊沙華

天界にまんだらけ地上にまんじゆさげ まんじゆさげ阿修羅のごとく汝を愛す 過去の修羅寂寞とあり曼殊沙華 曼殊沙華我も一つの宇宙なり 虚と実のあはひにぬつと曼殊沙華

向日葵

向日葵の朽ちてゆきしも直立す

驟雨

バーボンと葉巻とペンと夜の驟雨

紫陽花

あぢさゐのうしろは海の暮れてをり 手花火の中を江ノ電通りけり 蟻の列蟻の時間を運びたる

薔薇月夜

薔薇月夜狂気のやうな告白す

筍流し

母匂ふ真夜の筍流しかな

薔薇

黒ジャガーゆつくり出づる薔薇の門

河 五月号 掲載作品

時空の辻 三月がランプを持つて立つてゐる 地震狂ふ時空の辻や雲に鳥 春潮や母の黒髪靡きゐる 一湾にひかりいちまい麗けし 喧嘩して知る春風のやうなもの 親不孝通りを抜けて卒業す 悼 武正美耿子さん身の熟(こな)し美しき人ゆく桃の花

風五月

新しき扉開かれ風五月

忘れな草

かにかくに尾道恋し春夕焼 首都は今暮春の寂の中にあり 時流れ忘れな草の風流る 春愁やウィルスはいつも傍にゐる 風光る人間もまた遺跡なり

暮春

横須賀の海しづかなる暮春かな

春雷

春雷や白衣出でくるラブホテル

支へあひ花の筏は動かざる 余花白し母恋ふ空となりにけり 花しぐれ季の時空を超ゆるかな

勿忘草

青い歴史は勿忘草が書くだらう 勿忘草少年ジョジョは生きてみる

鬱王

春愁を掬ふ葛西の観覧車 鬱王はぺんぺん草に跪く 花ちらししづかな雨や啄木忌 啄木忌忘れな草の藍かなし コロナ禍のぢつと手をみる啄木忌 「さぼうる」の木椅子二脚が囀れり 旅人の桜は海峡渡りけり

暮春

花万朶映して川の曲がりたる 飛花落花鳴けない鳥の哀しかり 沈黙と虚無に遊ぶや花の下 地球こそノアの箱船かげろへる ウィルス狂ふ暮春私は生きてゐる

「河」4月号 掲載作品

山廬の灯 混沌と生と死のあり二月来る くぢら哭く春のさびしき日なりけり きさらぎの海や細胞分裂音 探梅や呱呱ゆたかなる村に出づ きさらぎの雪嶺まぢかく山廬の灯 虚空より花のこゑある西行忌 はつとして父の木仰ぐ茂吉の忌

二月

反徒より真白き手紙来る二月

煮凝り

死に似たる花といふ字の煮凝りぬ

水仙

水仙の薫りに立ちて見ゆる海

二日

駅裏に酒肆の灯点る二日かな

去年今年

去年今年冬の時代の足音す 動き出す恩賜の時計去年今年