光声の徒然日記

十七音で日々を徒然なるままに記す

2021-01-01から1年間の記事一覧

詩の水脈

鴛鴦の水脈涸れずあり詩の器 悲しみは拳のかたち通夜寒波 街騒を消してやさしき寒の月 古書街の十一月の日の匂ひ 書架に差す冬日に眠る罪と罰 睥睨す皇帝ダリアなら許す 冬三日月黙しがちなる一行詩

冬銀河

報はれぬ生き方もあり冬山椒 あたたかや妻を名前で呼んでみる 冬銀河こぼれて巨鯨美しきかな 襟立てしコートの歌人絶叫す 虚空より手紙のような初雪来

詩のつばさ

あかつきの闇に拾ひし月の殻 幾星霜生き延びてきて草の花 花野から荒地へ向かふ母若し むきだしのたましひとなる夕花野 黄落のひかりに溺れてしまひけり 詩のつばさ持ちて渉らむ銀河かな 重力波たゆたふ銀河より銀河

小春

死にたいと嘘云ふ人とゐる小春

  「追憶」

人類の午後は失語し秋のこゑ 生きるなら心を燃やせ曼殊沙華 追憶の中に息づく紫苑かな 天界に紫苑咲きしと母のこゑ 追憶が追憶を生む秋の雨 ひたむきな曼殊沙華ふと疎ましき 風の奥かなかなしぐれ遠ざかる

沈黙の水脈

蝉殻を脱ぎ八日目を生きんとす 今生にしがみつきたる蝉の殻 八月の金魚は口で思考せり 置き去りにされし昭和の八月よ 手榴弾のごとく少年石榴投げ 戦乱にカラシニコフと石榴の実 沈黙の水脈に数多の石榴浮く

蝸牛

ホルン奏でよ雨の日の蝸牛

春燈

死に似たる花といふ字や春燈

しゃぼん玉

しゃぼん玉ひとは淋しきとき笑ふ

継ぎ当て

神田カルチェラタン古書肆の森に日脚伸ぶ 継ぎ当ての昭和を生きて針供養 相聞と挽歌さへづるなかあゆむ 春光にいのちひとつを抱きけり 生きるとは死者思ふこと雲に鳥 すかんぽや胸の奥処に父のこゑ わらび餅呼んでゐるのは母だらう

三月

三月を軋ませあまた忌日来る

春風

旅人となり春風の中にゐる

水温む

水温む生まれる前にゐた処

生きる

おほかみへ捧げよ孤独なる挽歌 うぶすなの初日浴びれば生きたしよ 生きて喰ふ働く人の二日かな 母だけを思ふ日であり七日粥 湯豆腐や二人になつて知る孤独 泣いてからふらりとかへる雪をんな 自由とは孤高のことぞ天の鷹

魚氷に上る

せせらぎは子らの手を待ち魚は氷に

泣きに来る

枯野には父の木のあり泣きに来る 裸木となりて光を纏ひけり 寒禽の空を切り裂きわつと翔つ 永遠の現在形を生きて 冬 いちどだけふれたるものに冬の虹 だれにでも抱かれる猫とゐる霜夜 冬銀河挟みあかんべしたる夢

厳寒期

人類は今厳寒期 知らんけど

虎落笛

遣隋使聞いてゐさふな虎落笛 安楽死した牛たちの大地凍つ

虎落笛

遣隋使聞いてゐさふな虎落笛

信念 新年

どの鳥も美しく羽ばたくお元日 白長須鯨噴き上ぐ淑気かな 父いつも枯野のとほき標の木 そこばかり光零れし福寿草 信念を貫く棒のなき海鼠 成人の日の味淡白な発泡酒 夕暮れが来て狼を見失ふ