2010年回顧
一月 天狼や狂ふことなく生きてゐる
石走る水のこゑある淑気かな
寒の水人間の管落ちにけり
二月 蒼天に告天子は撃たれ建国日
三月 図書室に少年ひとり鳥帰る
四月 いのちの緒つなぎて桜しだれけり
五月 みどりの日アクアマリンの雨が降る
六月 父の日の遠き海鳴りありにけり
天にこゑ泰山木のひらきたり
七月 父の日の青き夕べとなりにけり
滴りや生きとし生けるもののこゑ
八月 止り木に朝が来てゐる健次の忌
健次忌の寂しき星にジャズ流る
アルゼンチンタンゴ真赤な闘魚ゐる
いのちの緒手繰りて渉る銀河かな
根の国に水奔らせて八月尽
地図のなき旅つづけをり天の川
九月 澄みきつて我が蒼茫の空にこゑ
みづうみの空に水尾あり雁のこゑ
十月 さぼうるの木椅子の軋む秋の暮
荊冠の黙にこゑある良夜かな
十一月 行く秋や秘色を宿す水のこゑ
たましひの似たひととゐて秋淋し
稲架ぶすま月に濡れたる秋燕忌
まほろばの天に鷹の座思ひけり
天山の蒼穹に鶴遊ぶべし
十二月 天狼やヒトが密猟されてゐる
さびしさの糸吐くごとく鶴来たり
はるかなるものに繋がる聖夜かな